会社が労災申請してくれる場合でも、弁護士に相談すべき理由
⑴ 弁護士に相談すべき理由
労災事故が発生した際、被災労働者又は遺族は、その損害について、会社に不法行為や安全配慮義務違反等の過失が認められる場合、会社に対し、損害賠償請求をすることができます。ここで留意しなければならないのは、労災認定されたことが当然に会社の損害賠償責任を肯定するものではない点です。会社に不法行為や安全配慮義務違反等の過失が認められるかどうかは、法的観点からの検討が重要であり、そこで、弁護士による助言が必要になります。以下の場面において、特にその必要性が高いといえます。
⑵ 不法行為や安全配慮義務違反の特定の場面
昔の労働基準法は、危害の防止、安全装置、性能検査、有害物の製造禁止、危険業務の就業制限、安全衛生教育、病者の就業禁止、健康診断、安全管理者・衛生管理者等を規定していました。しかし、1960年代以降の高度経済成長に伴う生産技術の高度化、生産設備・過程の大型化・複雑化、危険・有害物の増加等の労働環境の変化のなかで、労働災害の危険が増え、罹災労働者が増加しました。そこで、1972年に、労働基準法から独立する形で、労働安全衛生法が制定されました。労働安全衛生法は、「労働災害」を「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」と定義しています。労働安全衛生法による具体的な規制の内容は、多くが政令・省令に委任されており、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則、ボイラー及び圧力容器安全規則、クレーン等安全規則、ゴンドラ安全規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、石綿障害予防規則、高気圧作業安全衛生規則、電離放射線障害防止規則、酸素欠乏症等防止規則、事務所衛生基準規則、粉じん障害防止規則など、すべての政省令をあわせると1500条を超える詳細な規定が定められています。
また、最近の労働安全衛生法においては、過重労働による脳・心臓疾患死(過労死)の予防対策や職場におけるメンタルヘルス対策を講じる法改正も相次いで行われています。
このような多様で複雑な内容を有する関連法規が、安全配慮義務の内容を確定させる際に考慮される重要な要素になりますので、この場面においては、法律の専門家である弁護士に相談すべきといえます。
⑶ 後遺障害等級認定の場面
被災労働者の負傷や疾病が治ったときに障害が残っている場合、障害等級認定を受けることになります。この「治ったとき」というのは、負傷や疾病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいうとされています。
障害補償給付は、障害による労働能力の喪失に対する損失てん補を目的とするものですので、障害の程度に応じて行われます。その障害の程度は、労働基準法施行規則別表第2身体障害等級表および労働者災害補償保険法施行規則別表代1障害等級表に規定されています。障害の等級は、第1級から代14級までの14段階に区分され、身体障害は137種の類型的なものが掲げられています。さらに、障害等級に掲げられている身体障害が2以上ある場合は、併合されます。
例えば、上肢の機能障害は、「両上肢の用を全廃したもの」が第1級の7、「1上肢の用を全廃したもの」が第5級の4、「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」が第6級の5、「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」が第8級の6、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」が第10級の9、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」が第12級の6に定められています。3大関節とは、肩、肘、手首をいいますが、「著しい障害」と「障害」の違いは、関節の可動域角度が健側の2分の1以下に制限されているか、4分の3以下に制限されているかによります。関節可動域は、原則として、他動運動で測定されますが、負傷部位等によっては、診断書作成にあたり、自動運動を併記しないと正確な後遺障害等級が認定されないこともありえます。
後遺障害等級第1級から第7級までは障害補償年金及び障害特別年金が、第8級から第14級までは障害補償一時金及び障害特別一時金が、それぞれ給付基礎日額と算定基礎日額に応じて支給され、また、全ての等級で等級に応じた障害特別支給金が支給されます。したがいまして、認定される後遺障害等級が重要であることは自明で、申請にあたっては残存している障害を正確かつ漏れなく申告しなければならないといえます。
⑷ 損害賠償額の算定の場面
一般的に、損害として、積極損害、消極損害、慰謝料、将来の介護費(介護が必要な後遺障害が残存した場合)等があげられます。積極損害には、治療関係費、付添費用、将来介護費、雑費、通院交通費、器具・装具等購入費、家屋等改造費、葬儀関係費用等があります。消極損害には、休業損害、後遺障害による逸失利益、死亡による逸失利益があります。慰謝料には、傷害(入通院)慰謝料、後遺傷害慰謝料、死亡慰謝料があります。
まず、労災給付には、慰謝料はありません。
次に、休業補償給付については、最初の3日間は待機期間とされ支給されませんし、4日目以降の支給額は給付基礎日額の6割ですので、残りの4割については休業損害として損害賠償請求できます(なお、休業特別支給金として給付基礎日額の2割が支給されますが、この2割の部分は損害てん補の対象になりませんので、注意が必要です。)。
さらに、障害補償給付は、後遺障害による逸失利益の金額よりかなり少額ですので、逸失利益から障害補償給付を差し引いた金額を損害賠償として請求できます。後遺障害による逸失利益の算定方法は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する係数になります。基礎収入は、労災事故前直近の収入によるのか、男女別・年齢別等の平均賃金(賃金センサス)によるのか等の大きな論点があります。
このように、損害賠償額の算出の場面においても、法的知識が要求されるため、弁護士に相談すべきといえます。
⑸ 交渉の場面
労災事故における損害賠償請求において、労災の原因となった作業等における被災労働者の過失や疾病発症にかかる被災労働者の性格や健康管理、生活習慣、既往歴等の素因が問題となり、会社側から過失相殺を主張されることがあります。なお、労災給付の場面においては、過失は問題となりません。
労災事故は、交通事故と異なり、労働者が相手方である会社と対等な立場になく、作業環境や仕事内容、安全設備等について、労働者が決定権限を持っているわけでもありません。したがいまして、労災事故における損害賠償請求においては、会社からの過失相殺の主張を安易に受け入れることなく、法的観点から正当に争っていく必要があります。
最高裁は、どのような場合にどの程度の過失相殺をすべきかについて、「ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、・・・その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない。」という枠を設けています。
