安全配慮義務を負っているのは誰でしょうか?

これは、損害賠償請求の相手方が誰になるのかという重要な問題といえます。

雇用主○

労働契約を締結している使用者つまり雇用主が、労働契約法第5条により、安全配慮義務を負っていることは明らかです。

元請会社○(被災労働者が下請会社従業員・孫請会社従業員の場合)(一定の要件あり)

建設業、製造業等では、発注者、元請会社、下請会社、孫請会社といった多重請負のもとに業務が行われています。このようなケースにおいて、下請会社の労働者や孫請会社の労働者が、労働災害により被災した場合に、発注者や元請会社に損害賠償責任が認められるのでしょうか。とくに、下請会社、孫請会社に資力がなく、十分な賠償が期待できない場合では、問題となります。

この点、最高裁は、造船所における下請会社の従業員の騒音性難聴に関して、元請会社の安全配慮義務違反が問われた事案で、「上告人(元請事業者)の下請企業の労働者が上告人の神戸造船所で労務の提供をするにあたっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対して安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は正当として是認することができる。」として、一定の要件の下で、元請会社の安全配慮義務違反を認めています。

多くの裁判例も、元請会社が下請会社労働者・孫請会社労働者に対して、直接指揮監督等を行う等、「特別な社会的接触の関係」が認められる場合には、元請事業者に下請事業者の労働者等に対する安全配慮義務を認める傾向にあります。東京地方裁判所平成28年9月12日判決は、孫請会社従業員の労災事故につき、元請会社および下請会社の安全配慮義務を否定しましたが、東京高等裁判所平成30年4月26日判決は、元請会社および下請会社の安全配慮義務違反を認めていますし、那覇地方裁判所沖縄支部平成18年8月31日判決は、孫請会社従業員の労災事故につき、元請会社の安全配慮義務を否定しましたが、福岡高等裁判所那覇支部平成19年5月17日判決は、元請会社の安全配慮義務違反を認めています。

ただし、注意しなければならないのは、これら元請会社に民事上の安全配慮義務が認められた事案の多くは、被災労働者が、元請会社が管理する設備・工具等を用いていたり、元請会社の指揮監督を受けていた等の事実が存した場合であって、下請会社従業員や孫請会社従業員の労災事故に関して、全ての場合に元請会社の安全配慮義務が認められるものではない点です。

発注者○(被災者が個人事業主の場合)(一定の要件あり)

一人親方の大工、個人事業主の配送業務運転手等は、発注者や委託者との間で、雇用契約ではなく、請負契約や委任契約を締結しています。このようなケースでは、雇用契約でさえないことから、発注者や委託者が個人事業主に対して安全配慮義務を負うのかが問題となります。

この点、裁判例は、被災者が仕事の依頼について諾否の自由を有していたか、受託した業務を遂行するに際して詳細な指示を受けていたか、自己の所有・管理する自動車や道具を使用していたか、労働時間管理を受けていたか等や、社会保険の加入状況等から、まず労働者性の有無を判断し、労働者性を否定した場合であっても、業務の遂行に際して、個人事業主が発注者の指揮監督を受けていたことが認められる場合には、「原告が被告の指揮監督の下に労務を提供するという関係が認められ、雇用関係に準じるような使用従属関係があった」として、このような場合には、発注者や委託者に安全配慮義務を認めています。また、個人事業主が業務委託会社の代表者からセクハラ・パワハラを受けて鬱状態になった事案においても、原告が被告(業務委託会社)の指揮監督下にあったとして、被告の安全配慮義務違反を認めています。

派遣先○派遣元○(一定の要件あり)

労働者派遣においては、派遣労働者は、派遣元との雇用契約に基づいて派遣先の事業場に派遣され、派遣先の指揮命令に従って就労します。このような関係を踏まえ、労働者派遣法は、労働基準法や労働安全衛生法等の労働者保護法規の適用について特例を定めており、労働災害が発生した場合の災害補償責任や一般健康診断・長時間労働にかかる医師の面接指導等を実施する責任は派遣元としながらも、労働者の危険または健康障害を防止するための措置については派遣先が責任を負う仕組みが取られています。労働者派遣においては、派遣労働者は、派遣先において派遣先の設備・器具等を使用し、派遣先の作業に関する指揮命令に従って就労する関係にあることからすれば、基本的には、安全配慮義務を負うのは派遣先と解されます。裁判例においても、「使用者」には「雇用契約上の雇用主のほか。労働者をその指揮命令の下に使用する者を含む」と判示しています。

他方で、派遣元も使用者として派遣労働者に対して安全配慮義務を負っていることから、派遣先の安全衛生管理が不十分であることを派遣元が知り得た場合には、派遣元も派遣先とともに安全配慮義務を負うことになります。

裁判例においても、派遣元について、派遣先における就業の状況を把握していなかったために派遣先に対して是正を求めたり、派遣の停止をしなかったことにつき過失を認めています。

出向先○出向元△

出向とは、出向元つまり現在の使用者との労働契約関係を存続させたまま、出向先である他の使用者の業務に従事することいい、労働契約上の権利義務の一部が出向元から出向先に移転します。どの権利義務が移転するかは、当事者間の合意によります。多くの場合は、労務給付請求権、指揮命令権など就労にかかわる権利義務は出向先に移転します。そうすると、基本的には、出向先が安全配慮義務を負うと解されます。

裁判例においては、過重労働が問題となった事件で、出向元は、出向先および出向労働者との間の合意により定められた権限と責任、労務提供、指揮監督関係等の具体的実態に応じた内容の安全配慮義務を負うとし、出向元は、出向先から入手する人事考課表等の資料や出向労働者からの申告等により長時間労働等の具体的な問題を認識し又は認識し得た場合に、これに適切な措置を講ずべき義務を負うとしたうえで、出向元の安全配慮義務違反を否定しています。

取締役△(厳しい要件あり)

安全配慮義務は、使用者が負う義務です。使用者が会社の場合、会社(法人)が賠償責任を負うことになります。ただし、会社法429条1項は、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。例えば、長時間勤務による過重労働を知りながら、長期間にわたり何らの対策も講じず、放置した結果、労働者が死傷した場合など、取締役個人の責任が認められる余地があります。

裁判例においても、長時間労働の放置で、会社の責任とともに取締役個人の責任が認められたものや、ハラスメント事案で、取締役個人の責任が認められたものがあります。

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